大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)44号 判決 1979年8月30日
原告
祐成宏二
外六名
右原告ら訴訟代理人
西元信夫
外五名
被告
大阪陸運局長
小林哲一
同
人事院
右代表者総裁
藤井貞夫
右被告ら訴訟代理人
上野国夫
外八名
主文
一 原告らの被告らに対する請求はいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 申立
一 原告ら
1 被告大阪陸運局長が原告らに対し、昭和四四年一二月二六日付でなした各懲戒戒告処分をいずれも取消す。
2 被告人事院が原告らに対し、昭和五〇年五月二九日付でなした請求棄却の判定(人事院指令一三―二二)をいずれも取消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。<以下、事実省略>
理由
第一被告局長に対する請求について
一請求原因1ないし3については当事者間に争いがない。
二右争いのない事実によれば、本件各処分は、原告らが国公法九八条二項に違反したとして同法八二条一号を適用してなされたものであることが明らかであるから、本件各処分の違法性の有無を考えるに際し、国公法九八条二項の合憲性が先決問題となり、原告らは憲法二八条に違反する旨主張(再抗弁1)するので、まず国公法九八条二項の合憲性について判断することとする。
国公法九八条二項が合憲であることは、すでに最高裁判所大法廷判決(昭和四八年四月二五日。なお、昭和五一年五月二一日判決及び昭和五二年五月四日判決参照。)が明示するところであり、当裁判所も原告ら主張の諸点を熟慮検討するも右最高裁判所判例を相当と思料するので、これに従うものである。
よつて、原告らの右主張は採用することができない。
三すすんで、本件各処分事由たる争議行為(抗弁)について検討する。
1 本件職場大会に至るまでの経緯(抗弁1(一)ないし(五))については当事者間に争いがなく、当事者間に争いのない事実並びに<証拠>を総合すると、人事院は昭和四四年八月一五日、国会及び内閣に対し、国公法二八条及び給与法二条の規定に基づき一般職の職員の給与について勧告を行なつたが、その内容は、一般職国家公務員の給与を平均10.2パーセント引上げることなどとし、その実施時期を同年五月一日からとするものであつたこと、国公共闘は、右勧告における給与引上げ率については、昭和三五年以来九年ぶりの二桁勧告であるとして一定の評価をしたものの、一律八〇〇〇円と体系改善一万円以上の賃金引上げという要求に満たないものとして全体として不満を示し、同年九月八日、政府に対し、「賃上げは五月から実施すること、賃上げの実施にあたつては、最低賃上げ四〇〇〇円を保障すること、扶養手当は被扶養者のすべてに七〇〇円増額すること、期末手当増額は0.2か月とすること、住宅手当を支給すること」などの当面の統一賃金要求を提出したこと、政府は、同年一一月一一日、公務員の給与改定に関する取扱について「一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員の給与については、さる八月一五日に行われた人事院勧告どおり俸給表等の改定を行うものとする、右改定は昭和四四年六月一日から適用する(すでに支給した六月期の期末・勤勉手当については、適用しない)こととし、関係法律の改正案は次期国会に提出するものとする」ことなどとの閣議決定を行なつたことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
2 近陸支部における本件職場大会の実施について
(一) 抗弁2(一)(近陸支部の組織)については当事者間に争いがなく、<証拠>によると、昭和四四年一一月当時の、近陸支部長は原告二瓶卓、副支部長は加納仁郎、書記長は長谷川道弘であり、近畿陸運局(本局)分会長は宮川正祐、副分会長は川原光三、書記長は中尾修二であり、大阪分会長は原告上原一郎、副分会長は東和義及び川口、書記長は矢野であり、京都分会長は原告供田光夫、副分会長は深本敏雄、書記長は伊藤良平であり、兵庫分会長は原告北谷信也、副分会長は原告中橋秀二(本所勤務)及び建石太郎(姫路支所勤務)、書記長は森山洋一であり、奈良分会長は原告川上豊、副分会長は近藤正一、書記長は奥西章であり、和歌山分会長は原告祐成宏二、副分会長は高瀬、書記長は岡本であることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) 近陸支部及びさん下各分会における本件職場大会体制の確立状況とこれに対する当局のとつた措置について
当事者間に争いのない事実並びに<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
近陸支部は、全運輸第八回定期大会後の昭和四四年九月一九日、大阪陸運局会議室において第二一回定期大会を開催し、国公共闘及び全運輸の前記のような実力行使を中心とした闘争方針を全面的に支持し、積極的に闘つていくことを確認し、全運輸中央本部の闘争日程をふまえストライキ体制を確立していくことなどの闘争方針を全員一致で承認・可決し、以後同支部においては、右ストライキ体制を確立するために学習会、討論集会などの諸活動が行われ、又、同年一〇月七日から同月三一日にかけて近陸支部及びさん下各分会から大阪陸運局長及び同管内各陸運事務所長等に対し、賃上げは五月から実施することをはじめとした全運輸の統一要求書を提出し、運輸大臣にあてた右要求を取次ぐよう求め、これを上申するとの約束を得るなどした。
近陸支部は、同月二三日から同月二五日にかけて、全運輸指令第一号に従い、全分会において本件統一行動(実力行使)に対する賛否を問う一票投票を実施したが、その結果は、投票有権者組合員に対する賛成意思を投票した組合員の比率(批准率)が75.2パーセント(ちなみに、本局分会・58.3パーセント、大阪分会・81.3パーセント、京都分会・75.0パーセント、兵庫分会・83.6パーセント、滋賀分会・76.5パーセント、奈良分会・94.4パーセント、和歌山分会・72.7パーセント)であり、投票した組合員数に対する賛成率は79.1パーセント(ちなみに、本局分会・60.8パーセント、大阪分会・86.0パーセント、京都分会・75.0パーセント、兵庫分会・90.3パーセント、滋賀分会・86.7パーセント、奈良分会・一〇〇パーセント、和歌山分会・72.7パーセント)であり、かつ全分会において右実力行使一票投票は批准され、さらに、同年一一月七日から一〇日にかけて全運輸指令第二号に従つて実施された本件統一行動(実力行使)に対する参加決意署名が行われた。右参加決意署名とは、「私は左記の国公統一賃金要求をかちとるため、一一・一三統一行動日に全運輸指令に基づいて「早朝から勤務時間に二九分くい込む職場大会」に参加します」と記載し、「賃上げは五月から実施すること」などの要求事項を列挙したものであつたが、右署名の結果は、組合員数三八六名(長期欠勤者三名を除く)中三六二名が署名し、その署名率は93.8パーセント(ちなみに、本局分会・89.5パーセント、大阪分会―本所・95.7パーセント、和泉支所・93.9パーセント、兵庫分会―本所・94.3パーセント、姫路支所・一〇〇パーセント、京都分会・97.4パーセント、奈良分会・94.4パーセント、滋賀分会・88.2パーセント、和歌山分会・95.5パーセント)であつた。
このようにして本件職場大会に対する組合員の意思確認が行われ、その実施の気運が高まる中において、同年一〇月二三日、総理府総務長官は国公共闘議長に対し、公務員の自覚と反省を促し、違法な行動を行うことのないよう自重を求める旨の警告を発すると共に談話を発表し、同年一一月一二日、運輸事務次官は、全運輸中央執行委員長に対し、違法行為を行うことのないよう自重を求める旨の警告を発した。さらに、同月八日から一〇日にかけて被告局長から近陸支部長である原告二瓶に対し、大阪陸運局総務部長から本局分会長宮川に対し、同局管内各陸運事務所長(兵庫県陸運事務所姫路支所においては同支所長)から各分会長(右姫路支所においては兵庫分会副分会長建石)に対し、それぞれ「伝えられるところによれば、貴組合においては来たる11月13日勤務時間内職場大会を計画している模様であるが、いうまでもなく国家公務員には、かかる争議行為は法令によつて禁止されているところであります。当局は貴組合がもし伝えられるような違法行為を行なつた場合には、関係法令に基づき必要な措置をとらざるをえないので、貴組合の自重を強く要望します。」と記載した警告書を交付して警告し、さらに、当局は、同月八日から同月一一日にかけて各職員に対し、同月六日付運輸事務次官名による本件職場大会に参加しないようにとの内容を含んだ「職員のみなさんへ」と題した警告書を交付して、本件職場大会に参加することのないよう自重を求めた。これに対し、近陸支部及びさん下各分会は、右警告書をあえて受取らず、或いは交付されたものを分会役員などにおいてまとめて当局に返還するという状況であつた。右に加えて、和歌山県陸運事務所においては、同月一二日、所長交渉の際、原告祐成から翌一三日に勤務時間内にくい込む職場大会を中庭で行う旨通告があつたのに対し、同所長は勤務時間内にくい込む職場大会は違法であるのでとりやめること、庁舎管理規程に基づく目的外使用の許可を受けることについて口頭で警告し、奈良県陸運事務所においては、同月一二日、所長交渉の際、同所長から原告川上らに対し、本件ストライキをとりやめるように重ねて警告し、本件ストライキが実施されれば処分問題が生ずる旨伝え、兵庫県陸運事務所においては、同月一二日、同所長から分会長原告北谷及び副分会長原告中橋らに対し、本件職場大会を中止するように口頭で強く警告し、京都府陸運事務所においては、同月一一日、所長交渉の際、本件職場大会による実力行使の通告がなされたのに対し、違法である旨回答し、右同日、全職員に対し、総理府総務長官から国公共闘議長あての前記警告文を回覧閲読させ、大阪陸運局(本局)においては、同月一一日、原告二瓶から本件職場大会実施の通告があつたのに対し、当局から勤務時間にくい込む職場大会は違法であるからとりやめるよう警告すると共に勤務時間中は職務に専念する義務がある旨強調し、さらに同月一二日、同局総務部長から原告二瓶らに対し、再度勤務時間にくい込む本件職場大会を中止するよう説得した。又、大阪陸運局及び管内各府県陸運事務所において、同月一二日、当局は、全職員に対し、勤務時間は午前八時三〇分から午後五時まで(本局においては午前九時五分から午後五時二〇分まで)であること及び勤務時間内にくい込む職場大会に参加することは違法である旨伝えた。
同月一二日、近陸支部執行部は、常任中央闘争委員会から、「ボーナス抜六月実施の閣議決定に断固反対し、一一・一三は早朝時間内くい込み職大の実力行使は実施せよ。ただし、くい込み時間については追つて電話にて指令する」との電報による全運輸指令第三号を受け、さらに同夜半、本局分会はくい込み時間一五分、その他の分会は二〇分とするとの電話指令を受け、右各指令をさん下各分会に伝達した。
(三) 近陸支部さん下各分会における一一月一三日の本件職場大会の実行及び同大会における原告らの役割並びに当局のとつた措置について
当事者間に争いのない事実並びに<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ、<る>。
(1) 和歌山分会における本件職場大会の状況
和歌山分会における本件職場大会は、和歌山県陸運事務所宿直室前の中庭において、午前八時三〇分頃から同四五分頃まで一六名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、陸運事務所奥田執行委員の司会で進められ、まず原告祐成が分会長として一、二分間あいさつをした後、高瀬副分会長らからメツセージ、祝電の紹介がされるなどし、最後に右副分会長が決議文の朗読、岡本書記長が要求事項の確認を提案して全員一致で確認され、最後に奥田執行委員が閉会のあいさつをして右大会を終了した。
その間、赤居和歌山県陸運事務所長は、午前八時四〇分頃、分会長である原告祐成を呼び、右大会が勤務時間内にくい込んでおり、許可のない場所で行われているので、解散するよう口頭で命令した。しかし、原告祐成らは、右命令に従つて解散することはなかつた。
(2) 奈良分会における本件職場大会の状況
奈良分会における本件職場大会は、奈良県陸運事務所宿直室において、午前八時二五分頃から同五〇分頃まで一七名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、奥西書記長の司会で始まり、まず分会長である原告川上が全運輸本部及び近陸支部のメツセージと祝電を朗読し、その後加納中央闘争委員会委員(近陸支部副支部長)が一一・一三闘争の意義について述べ、続いて近藤副分会長が所長交渉の経過を報告するなどした後、奥西書記長が閉会を宣言して解散した。
その間、牟礼輸送課長は、午前八時四〇分頃、原告川上をはじめとする大会参加者に対し、勤務時間内の無許可集会であるから解散するよう口頭で命令した。
(3) 兵庫分会(本所)における本件職場大会の状況
兵庫分会(本所)における本件職場大会は、兵庫県陸運事務所玄関前横庭において、午前八時二〇分頃から同四二分頃まで四七名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、開会宣言に始まり、分会長原告北谷があいさつ及び職場大会の意義について約七分間演説を行い、その後書記長らから経過報告、メツセージの紹介、闘争宣言の朗読がなされ、がんばろうを三唱し、労働歌を合唱して終了した。
その間、尾仲総務課長は、分会長原告北谷に対し、午前八時二五分頃「この大会は無許可であるからすぐ解散せよ」との、又、同三六分頃「時間内にくい込む大会は違法であるからすぐ解散しなさい」との各解散命令を口頭で伝え、さらに同四〇分頃、全参加者に対し、プラカードに解散・職場復帰命令を記載して伝達した。
(4) 兵庫分会(姫路支所)における本件職場大会の状況
兵庫分会(姫路支所)における本件職場大会は、兵庫県陸運事務所姫路支所構内入口横の空地において、午前八時三三分頃から同五〇分頃まで一五名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、建石副分会長の開会の言葉で始まり、副分会長である原告中橋が所長交渉の経過について演説すると共に兵庫分会職場大会の「決議文」を朗読し、その後メツセージ朗読がなされ、がんばろうを三唱し、労働歌を合唱して終了した。
その間、青木正姫路支所長は、午前八時三五分頃、建石副分会長に対し、組合旗が立ててあること及び勤務時間内にくい込む右大会は違法であることを口頭で注意し、さらに同四九分頃、参加者全員に対し解散するよう口頭で命じた。
原告中橋は、勤務場所が兵庫県陸運事務所(本所)輸送課であるが、右当日は、一一月一二日に行われた所長交渉に姫路支所勤務の建石副分会長が出席しなかつたため、右交渉経過を本件職場大会において報告するなどするために、家事都合との理由をもつて年次有給休暇の承認を得たうえで、前日(一二日)夜から姫路分会に泊り込んで参加したものである。
(5) 京都分会における本件職場大会の状況
京都分会における本件職場大会は、京都府陸運事務所玄関前広場において、午前八時二〇分頃から同四九分頃まで三三名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、桜井執行委員が開会のあいさつを行なつた後、伊藤書記長が経過報告し、決議文朗読、要求スローガン朗読、来賓のあいさつ、労働歌合唱と進み、最後に分会長である原告供田が音頭をとつて団結がんばろうの三唱をした後閉会した。
その間、大堀総務課長は、八時二五分頃、分会長である原告供田に対し、解散命令書を手交しようとしたが同原告はこれを拒否し、同三六分頃、同課長が参加者全員に対し、解散命令及び職場復帰命令をプラカードに記載して掲出し、同四五分頃、原告供田に対し、解散命令書を手交したが、同原告はこれを受領することを拒んだ。
(6) 大阪分会(本所)における本件職場大会の状況
大阪分会(本所)における本件職場大会は、大阪府陸運事務所玄関前広場において、午前八時二〇分頃から同五〇分頃まで七五名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、開会宣言の後議長団が選出され、まず分会長原告上原が人事院勧告を完全に実施させるために本件統一行動の推進を行う旨のあいさつをした後、経過報告、決意表明、大会スローガン朗読、閉会宣言、がんばろう三唱の順で行われ終了した。
その間、午前八時三五分頃、赤松次長は右大会参加者に対し、始業時間に入つたので、それぞれの職場に戻るように伝え、本件職場大会の解散を二度にわたりくり返し口頭で命令したが、依然として右大会は続けられたので、分会長原告上原に対し、所長名による解散命令を手交しようとしたが、がんばろう三唱の後直ちに解散したので右命令書を手交するに至らなかつた。
(7) 本局分会における本件職場大会の状況
本局分会における本件職場大会は、大阪陸運局自動車部事務室において、午前八時四五分頃から九時一七分頃まで八二名の組合員が参加して行われた。右大会の進行は、本局分会書記長中尾の開会宣言に始まり、本局分会長宮川があいさつと経過報告を行なつた後、近陸支部長原告二瓶があいさつをし、人事院勧告に対する閣議決定の不当性を説明し、続いてメツセージ等の紹介、大会宣言を拍手で採択した後閉会のあいさつをもつて終了した。
その間、右大会参加者に対し、午前八時五一分頃、奥西総務課長が「無許可集会に付き直ちに解散せよ」との局長命令を大声で二度くり返して伝え、午前九時四分頃、高須人事課長が「九時五分が勤務時間であるから直ちに解散して勤務に就くように」との局長命令を二度にわたりくり返し大声で伝えた。
3 原告らの行為と国公法九八条二項違反
被告局長は、原告らが本件職場大会に参加した点において国公法九八条二項前段の争議行為をなした場合に当たるとし、右大会において、あいさつ、経過報告、決議文の朗読、演説を行い、がんばろう三唱の音頭をとつた点において同項後段の「あおり」、「そそのかし」行為に当たるとして本件各処分を行なつたものであるところ、原告らは、本件職場大会は争議行為の概念にすら該当せず、団結活動・組合活動であり(再抗弁2(一))、又、国公法九八条二項所定の争議行為にも該当しない(同2(二))旨主張し、右あいさつ等の行為は「あおり」「そそのかし」行為に当たるものでない旨抗争するので、この点について検討する。
(一) 争議行為の意義については、労調法七条が「この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行為であつて、業務の正常な運営を阻害するものをいふ」と定義付けているのであるが、右定義は、いうまでもなく労調法の適用にかかる争議行為の意義を明らかにしたものにすぎないから、これをもつて争議行為一般の定義規定となすことはできず、他に実定法上、争議行為一般についての意義を明らかにする規定は存しない。そこで、従来、労調法の右規定を手がかりとして、争議行為の概念を明確にするとの方法が一般にとられ、講学上諸説の展開をみるところではあるが、結局のところ、争議行為について規定する当該法規の趣旨、目的等に照らし個別的に解するのが最も妥当であると考える。そして、本件において問題視されるべきは、要するに本件職場大会が国公法九八条二項所定の争議行為に該当するかどうかであつて、本件職場大会が争議行為の一般概念に該当するかどうかについて考察を加えることは、本件解決のうえにおいてさして有意義なこととも思われないので、ここでは、以下において本件職場大会が国公法九八条二項に規定する争議行為に該当するかどうかについて検討することとする。
(二) 前記認定事実によると、本件職場大会は、国公共闘及び全運輸が統一賃金要求として掲げる「賃上げは五月から実施すること」などの要求を貫徹するために、近陸支部さん下の各分会において、午前八時三〇分(本局分会においては午前九時五分)前後数十分にわたり、就業命令等を無視して行われたものであることは明らかである。
ところで、大阪陸運局本局においては午前九時五分からおおむね午前九時二〇分頃まで、その他の府県陸運事務所においては午前八時三〇分からおおむね午前九時頃まで出勤簿整理時間と称する取扱いがなされていることは当事者間に争いがない(ただし、原告らは、その法的評価を含めこれを出勤猶予時間とも主張するが、右呼称における取扱いがなされている限度において争いがない。)ところ、原告らは、職員は特別の合理的な必要のない限り、右出勤簿整理時間内の勤務を免除されていると主張する。
そこで、職員(一般国家公務員)の勤務時間についての法令上の定めをみてみるに、国家公務員の勤務時間等勤務条件については、その基礎事項を法律によつて定め、細目については法律の委任を受けた人事院規則によつて定めることとされており(憲法七三条四号、国公法二八条、一〇六条)、一般職国家公務員の給与及び勤務時間に関する事項を定めることを目的として制定された給与法一四条一項は、「職員の勤務時間は、休憩時間を除き、一週間について四十時間を下らず四十八時間をこえない範囲内において、人事院規則で定める。」と規定し、同条四項は「……勤務時間は、特に支障のない限り、月曜日から土曜日までの六日間においてその割振を行い、日曜日は、勤務を要しない日とする。」と定め、国公法及び給与法の委任に基づく人事院規則一五―一(職員の勤務時間等の基準)四条は、「給与法第十四条第一項の規定に基づく勤務時間は、一週間について四十四時間とする。」と規定し、正規の勤務時間の割振りについて、同規則五条一項は、会計検査院及び人事院の職員以外の「職員にあつては内閣総理大臣が……定めるものとする。」とし、勤務時間の割振りの基準について、同規則六条一項は、「……特に支障のない限り、月曜日から金曜日までの五日間においては一日につき八時間となるように、土曜日においては四時間となるように割り振るものとする。」と定め、右規則の規定を受けて内閣総理大臣は、政府職員の勤務時間に関する総理庁令(昭和二四年総理庁令第一号)一項は、「政府職員の勤務時間は、休日を除き次の通りとし、日曜日は勤務を要しない日とする。月曜日から金曜日まで 午前八時三十分から午後五時まで。但し、その間に三十分の休憩時間を置く。土曜日 午前八時三十分から午後零時三十分まで。」と定め、その二、三項において、通勤のため交通機関が著しく混雑する地域に所在する官庁に勤務する政府職員及び現業その他特別の勤務に従事する政府職員の勤務時間は、主務大臣が(内閣総理大臣の承認を得て)別に定めることができる旨規定している。
そして、運輸大臣は、通勤のため利用する交通機関が著しく混雑する地域にある東京、大阪の運輸省関係機関の職員の勤務時間について、右総理庁令二項、人事院規則一五―一の九条に基づき、所定の手続を経たうえ、勤務時間を月曜日から金曜日まで午前九時五分から午後五時二〇分まで、土曜日午前九時五分から午後一時五分までと変更し、大阪陸運局(本局)に勤務する職員は右変更された勤務時間の適用を受けているのである(成立に争いのない甲第一七号証及び弁論の全趣旨)。
右のように法令上定められた勤務時間に対し、出勤簿整理時間という取扱いがなされていることは前記のとおりであるが、右出勤簿整理時間とは、出勤簿管理(人事院細則九―五―一の三条及び四条)の事務の必要上、各官署の長が勤務時間管理員に対して発した職務命令により定められているものであり、右出勤簿整理時間と称される前記時間内に出勤簿の整理を完了することを命ずると共に右時間内に出勤した(出勤簿に押印した)職員に対しては、正規の勤務時刻に出勤したものとして取扱い、遅刻扱いにはしないというものであり、従つて、右時間内に出勤した職員は就業義務があるものとして取扱われている(証人松浦大輔の証言及び弁論の全趣旨)。
右法令の規定及び右認定事実から明らかなごとく、職員の勤務時間(始業)については法令等によつて、午前八時三〇分から(大阪陸運局勤務の職員については午前九時五分から)と規定され、各省庁においてそれぞれの都合で独自に変更することは許されないものといわなければならず、それ故、出勤簿整理時間の設定が職員の勤務時間を変更するものでないことは明らかである。そして、各陸運事務所においては午前八時三〇分以降、大阪陸運局においては午前九時五分以降の出勤簿整理時間と称される時間の実態が、原告ら主張のごとく出勤簿整理時間終了時点が出勤時刻であるかのような外観を呈し、出勤簿整理時間内には窓口業務も開始されず、その他いまだ勤務につかないものであつたとしても、右事実をもつて勤務時間を変更する旨の明示又は黙示における当局の意思を表示する事実とさえなし得ないし、又、右のような実態が巷間慣行と称される程度に継続されたものであつたとしても、右法令に明らかに反するものであるから、何らの規範的効力を有する慣行として成立する余地がないのである。
しかして、出勤簿整理時間の設定は、職員の勤務時間を変更し、当該時間内の勤務を免除するとの効力を有するものでない(よつて、原告ら主張の出勤猶予時間ではない。)から、職員は、出勤簿整理時間内に出勤した場合には、当然に当局の支配管理下にあり、労務供給義務を負うものというべきであり、右時間終了まで職員が他の目的のために自由に使用・行動し得る時間ではないのである。それ故、当局は、出勤簿整理時間内に出勤した職員に対し、職務命令を発することができるのは当然であり、まして、出勤簿整理時間内に開催された本件職場大会に参加している職員に対し「解散命令」或いは「職務命令」を発したことについては何ら瑕疵はなく、職員は右命令に拘束され、従うべき義務を負うものというべきである。
(三) 以上説示したところから明らかなごとく、本件職場大会は、「賃上げは五月から実施すること」などの統一賃金要求を貫徹するために、勤務時間内において、公務員として負担する職務専念義務に違反し、労務供給義務の提供を拒否したものということができ、右のような態様における職務専念義務の違反行為、労務供給義務の提供拒否行為(同盟罷業)は、それ自体必然的に業務の正常な運営を阻害する行為ということができるから、現に業務の正常な運営を阻害したかどうかを問うまでもなく、国公法九八条二項所定の争議行為に該当するというべきであり、単なる団結活動・組合活動であるとの原告らの主張は何ら根拠のない主張といわなければならない。
原告らは、国公法九八条二項所定の争議行為は、長時間かつ大規模な職場放棄を行なつたため、右業務に大混乱が生ずる場合である旨主張するのであるが、公務員の行う争議行為である限り、同法条項に規定する争議行為に該当し、その規模、状況等によつて区別すべき理由のないことは明らかである(前掲最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決参照)。よつて、原告らの右主張は理由がない。
又、原告らは、本件職場大会の目的が正当であり、本件職場大会が整然と行われたものであり、以前にも本件職場大会と同様の大会で、勤務時間内くい込み時間が右大会よりも長い職場大会が行われていたことをもつて、本件職場大会が国公法九八条二項所定の争議行為に該当しない旨主張するかのごとくであるが、右事情は本件職場大会参加者に対する処分を科するかどうかについての情状として考慮されこそすれ、右争議行為該当性の判断については右事情の存否によつて左右されるものでないこと前記説示より明らかである。
(四) 次に、原告らの行為が国公法九八条二項後段所定の「あおり」「そそのかし」行為に該当するかどうかについて考察する。
国公法九八条二項後段所定の「あおり」「そそのかし」とは、国公法九八条二項前段に定める違法行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為をなさしめるよう仕向ける行為を総称し、必ずしもこれによつて現実に相手方が影響を受けること及び業務の正常な運営を阻害する行為が行われることを要しないものと解すべきである。
そこで、右のような考え方に立つて原告らの行為が右「あおり」「そそのかし」行為に該当するかどうかについて判断するに、前記設定、説示のごとく、本件職場大会は、給与に関する人事院勧告の完全実施などの要求貫徹を目的として行われた国公法九八条二項に違反する違法な大会であるところ、同大会参加者はいずれも右大会の目的及び右目的貫徹のために勤務時間(出勤簿整理時間)にくい込んで右大会を行うものである旨の意思を確認したうえで右大会に参加しているのであり、又、原告らは近陸支部及び各分会において同支部等の指導者或いはこれに準ずる地位を有し、右地位にあるものとして右各行為をなしていること、さらには原告らの右各行為が右大会遂行のうえで積極的な意義を有するものといえることからすると、本件職場大会において、原告祐成が分会長としてあいさつをした行為、原告川上が分会長としてメツセージと祝電を朗読した行為、原告北谷が分会長としてあいさつと職場大会の意義について演説した行為、原告中橋が副分会長として所長交渉の経過について演説し、決議文を朗読した行為、原告供田が分会長として団結がんばろう三唱の音頭をとつた行為、原告上原が分会長としてあいさつをした行為、原告二瓶が支部長としてあいさつをし、人事院勧告に対する閣議決定の不当性を説明した行為は、いずれも国公法九八条二項後段所定の争議行為の「あおり」或いは「そそのかし」行為に該当するものということができる。
(五) 原告中橋は、本件職場大会当日は年次有給休暇の承認を得ていたから、使用者の指揮命令から離脱し、労働者の自由な利用に委ねられていた時間であるから、本件職場大会に参加したことなどをもつて国公法九八条二項に該当するものといえないし、右行為に違法な点はないと主張する(再抗弁3)ので検討する。
原告中橋が年次有給休暇の承認を得たうえで本件職場大会に参加したことは当事者間に争いがない。一般に、労働者は、労働基準法三九条の規定に従つて年次有給休暇が成立した場合、当該日における就労義務を免れるものと解することができる。従つて、原告中橋は、本件職場大会当日、年次有給休暇をとることによつて就労義務を免れたものということができるのであるが、だからといつて公務員として国公法九八条二項に違反する争議行為を行うことまで許されるものではないのである。
兵庫分会(姫路支所)における本件職場大会が国公法九八条二項所定の争議行為に該当する違法な行為であることは前記説示のとおりであるところ、原告中橋は、前記認定のごとく右大会を実効あらしめるために一定の役割をになつて参加し、所長交渉の経過について演説し、決議文を朗読した行為を行なつたのであるから、これを全体として考察し、争議行為を構成するものということができ、又右演説、朗読の行為が「あおり」「そそのかし」行為に該当すること前記説示より明らかなところである。よつて、原告中橋の右主張は理由がない。
(六) なお、原告中橋、同供田、同二瓶を除くその余の原告らの本件職場大会におけるあいさつ等の行為は、午前八時三〇分以前に行われたのであるから、右行為には違法性がない旨主張するかのごとくであるので附言するに、前記説示のごとく本件職場大会が違法なものであるから、原告らの右行為が本件職場大会における一行為として行われたものである限り、それが行われた時期如何によつて違法性の有無が左右されるものではないのである。
(七) そうすると、原告らの本件各行為は、国公法九八条二項前後段(ただし、原告川上については、「所長交渉の経過報告」をしたとの点は認め難く、前記のとおりメツセージ等を朗読したとの事実を認めることができるのであるが、右事実については処分事由として主張がないので、結局同法条項前段該当事実のみ)の行為に該当し、前記認定事実からすると、原告らは本件職場大会において主たる役割を果したものというべきである。
被告局長は、原告らに対し、国公法九八条二項違反を理由として本件各処分に及んだのであるが、原告らは、原告らの主張(再抗弁)4ないし6の理由をもつて本件各処分の違法性を主張するので、以下に項を改めて順次判断することとする。
四本件各処分が不当労働行為であるとの原告らの主張について
原告らが本件各処分をもつて不当労働行為と主張する所以は、要するに、1本件各処分の真のねらいが全運輸の団結を破壊し、闘争力を弱めようとするところにあること、2原告らの本件職場大会における前記行為は団結維持のために不可欠な行為であるにもかかわらず、これを処分事由とすること自体職場から団結そのものを排除する意図を示しているものであること、3それぞれの職場組織の長たる役員である原告らを処分することは、職場組織を破壊し、団結の土台を崩すためにしくまれたものであること、4出勤猶予時間中の本件職場大会に対し、当日に限り就業命令を発することは組合の団結を破壊する意図のあることを示すものであること、5本件職場大会前に警告書を発し、周到な準備をしたうえで、かつ労働基本権以上の法益が存しないのに本件各処分をしたことは団結に対する弾圧であること、以上の諸点にあるものということができる。
しかしながら、前記第一の三において認定、説示したごとく、被告局長は、原告らが近陸支部長、分会長或いは副分会長として違法な争議行為である本件職場大会に参加し、他の参加者らに対し右争議行為をなすように「あおり」「そそのかし」たものとして国公法九八条二項前後段、八二条一号に基づき、本件各処分の意思表示をしたのであり、原告ら主張のごとく前記1ないし5記載の意図、目的のもとになされたものとはとうてい認めることができないし、前記2ないし5記載のごとく本件職場大会における原告らの行為が不可欠のものであり、原告らが職場組織の長たる地位にあり、当局が出勤簿整理時間内(これを出勤猶予時間と解することができないことは前記説示のとおりである。)において行われていた本件職場大会に対し就業命令を発し、又、本件職場大会前に右大会に参加しないようにとの警告書を発したとしても、前記説示のごとく本件職場大会が国公法九八条二項に違反する違法な行為である限り、被告局長らが右違法行為を看過することなく右のような措置をとり、或いは本件各処分を行うことは当然のことというべきであり、これをもつて原告ら主張のごとく不当労働行為意思を推認することもできないのである。よつて、原告らの右主張は認めることができない。
五原告らは、本件職場大会における原告らの行為は、労働組合としての団体行動であるから、右行為について個人責任或いは幹部責任を問うことができないと主張する。
しかしながら、集団的労働関係である争議行為の場においても個別的労働関係が解消されるものではないから、当該違法争議行為における組合員の行為を個人的行為の側面でとらえたうえで、そのことを理由に組合員に対し、個別的労働関係上の責任である懲戒責任を追求することができるものというべきである。本件において、原告らは、前記のごとく違法な争議行為である本件職場大会に参加し、支部長、分会長等としてそれぞれ当該大会における主たる役割と目される行為をなしたものであるから、これをもつて国公法九八条二項に違反し同法八二条一号に該当するとして懲戒処分の対象となし得るものといわなければならない。
原告らは、原告らの行為はいずれも組合中央からの方針、指令に従い、組合員としての当然の義務を果したにすぎないから、原告らを特に選択して懲戒処分に付する合理的理由がないとも主張するが、既に説示したごとく本件職場大会は国公法に違反する違法な争議行為であるから、仮に組合の指令があつたとしても、それは国公法に優先するものでないこと当然というべきであり、右指令に従つたことをもつて違法な争議行為に参加したなどの原告らの行為を何ら正当化するものではないし、前記のような役割をした原告らが他の組合員と区別して本件各処分を受けるに至つたとしても、何ら不合理なものということはできない。よつて、原告らの右主張はいずれにしても採用することができない。
六処分権濫用の主張について
1 裁判所は、公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたり、懲戒権者と同一の立場に立つて、懲戒処分をすべきであつたかどうか、又、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁、最高裁同日第三小法廷判決・民集同巻同号一二二五頁参照)。
2 右の見地に立つて、本件各処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、処分権を濫用したものと認められるかどうかについて検討する。
原告らは、処分権の濫用の事由として再抗弁6(一)ないし(五)のごとく主張するので、まず右主張から順次判断を加えることとする。
(一) 原告らは、本件職場大会の目的が正当であり、態様も業務阻害は全くなかつたから、右大会の違法性が軽微であり、懲戒処分の対象になし得ないものである旨主張する、当裁判所も、国家公務員が人事院勧告の完全実施を求め要求活動をすることは理解できない訳ではない。
しかしながら、仮に、原告ら主張のごとく本件職場大会の目的が正当であるとの評価を受け得るものであつたとしても、その実現のために国公法の禁止する争議行為に訴えて要求を貫徹せしめようとすることは許されるものではなく、又、現に業務阻害を生ずることがなかつたとしても、広く国民一般に窓口を開いた陸運局及び陸運事務所の有する公共性と保安要員として一人を残した以外は全員が全職場から離脱したものであること、さらに、本件職場大会に先立ち、又、大会中においても当局が再三にわたり警告、就業命令及び解散命令を発しているにもかかわらず、これらを無視してあえて強行・続行されたことは、本件職場大会の違法性が決して軽微なものでないことを示すものといえるのである。
(二) 原告らは、原告らが本件各処分を受けることによつて昇給延伸の措置がとられ、通算一人当り二八万円ないし一四〇万円もの給与上の損失を受けることとなり、又、国公法九八条二項後段違反の罰金刑の最高額が一〇万円であることに比しても苛酷な処分である旨主張する。そして、原告らが本件各処分を受けたことによつて昇給延伸の措置がとられたことは<証拠>により認めることができ、右措置がなかつたならば原告らが退職時までに受け得るであろう給与の額が相当額(一人当り二八万円ないし一四〇万円)に達するであろうことは<証拠>により認めることができる。
しかしながら、前記説示のごとく本件職場大会の違法性に鑑みるとき、原告らが右のような不利益を受けるに至つたとしても、いまだこれをもつて原告らの本件各行為との間の均衡を失した苛酷な処分とまでいうことはできないし、又、国公法九八条二項後段に違反する行為をした者に対する刑罰のうち罰金刑の最高額が金一〇万円である(国公法一一〇条一七号)ことは明らかであるが、右罰金刑はあくまでも犯罪に対する刑罰として科されるものであり、これと性格の異なる懲戒処分によつて事実上蒙るであろう経済的損失額とを単純に比較して均衡を云々すること自体失当という外なく、さらに附言するならば、右規定に違反した者に対する刑罰として、罰金刑の外に選択的に三年以下の懲役刑が規定されていることからみても、右違反行為に対する刑事処分としての評価も軽微なものでないというべきである。
(三) 原告らは、本件職場大会以前に行われた右大会と目的、態様等が同様な早朝職場大会の開催については、何ら処分されていないことをもつて、本件各処分との間に均衡を失する旨主張する。
しかしながら、前記当事者間に争いのない事実及び認定事実から明らかなように、全運輸は、本件職場大会を勤務時間内にくい込む職場大会、実力行使或いはストライキとして把握し、組合員の十分な意思確認を行うなど万全の準備体制を整えたうえで本件職場大会に臨んだものであつて、この点に従前の職場大会と異る意義があるとの評価をしていたものというべきであり、又、現に全運輸が当局に対し、勤務時間内にくい込む旨通告したうえで勤務時間内に職場大会を催して争議行為を実施したのは本件職場大会が初めてのことであり、従前において原告ら主張のような職場大会が開催されていたとしても、全運輸自体の右大会に対する取組み方が時間外職場大会とのことであり、そのため当局の現認確知するところに至らず、懲戒処分に付されることがなかつたものということができるのである(証人長谷川道弘、同松浦大輔の各証言)。従つて、本件職場大会以前の職場大会については右のように本件職場大会におけるとは異る事情があるのであるから、被告局長が本件職場大会に関し本件各処分を行なつたことをもつて、従前の取扱いとの間に不均衡があるということ自体失当といわなければならない。
(四) 原告らは、政府が人事院勧告完全実施との国会決議を無視しながら、原告らの団結権活動に対し、処分をもつて臨むこと自体極めて不公正であると主張する。
人事院勧告及び国会決議を尊重しこれを実行し得ることが最も望ましいところであるが、公務員の給与についてはその財源が国の財政とも関連して主として税収によつて賄われているところから、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮のうえに立つて適当に決定されなければならないという特殊性を慮るとき、右勧告等を完全に実行し得なかつたとしても、その政治的責任を追求されるに至るはとも角、原告らの違法な争議行為に対する懲戒権の行使を何らかの意味においても阻害する事由とはならない。よつて、被告局長が原告らに対し、本件各処分を行なつたことをもつて不公正であるとの主張は理由がない。
(五) 原告らは、本件各処分は昭和四五年以降の争議行為及び本件職場大会と同時に行われた他支部に対する処分との比較において不公平がある旨主張する。
まず、本件各処分と昭和四五年以降の争議行為に対する処分との比較をみてみるに、<証拠>によると、昭和四四年一一月一三日の本件職場大会の闘争においては、戒告処分に処せられた者四三名の内訳は、全運輸本部役員一名、支部三役八名、分会三役三四名であること、昭和四八年から同五〇年までの闘争においては、分会役員が処分されておらず、合計人数で全運輸本部役員一五名、支部三役二〇名の者が戒告処分を受けていること、当局は、昭和四四年の本件闘争において、全運輸中央本部の責任者らについては企画指導の立証を十分にする資料を収集できなかつたので、右企画指導者に対する処分をなさず、各職場大会毎に実行行為者をとらえ、主たる役割を果した者を各職場大会に原則一人として戒告に、従たる役割を果した者を訓告に、参加者を厳重注意に処するとの基本方針をたて、これに従つて本件各処分がなされたこと、昭和四八年以降の闘争については、職場大会等の争議行為を陸運事務所等の構内で行わなかつたため実行行為を現認できず、遅刻して出勤した職員がその理由を交通ストによるとの申告をしたため、右争議行為の事実を認定するに至らず、他方、企画指導者については、これを立証するに足る資料を入手することができたため、全運輸中央本部及び支部の役員を処分の対象者とし、分会役員らについては右対象者としなかつたものであること、以上の事実を認めることができ、<る。>
右認定事実によると、原告ら指摘のごとく本件闘争における処分とそれ以降の闘争における処分に差異が生じたとしても、合理的理由があるということができるから、右差異の存することをもつて不公平ということはできない。次に、本件職場大会と同時に行われた他支部における職場大会に関する処分との対比をみてみるに、<証拠>を総合すると、近陸支部さん下の分会である滋賀分会において、本件職場大会と同様に職場大会が開催されたが、同分会の右大会に関して処分された者がいないこと、被告局長が同分会に関し処分をしなかつたのは、同分会における職場大会が午前八時三〇分から若干勤務時間にくい込んだにすぎず、その際に話合われた内容が年末の業務対策についてであつたことを考慮し、同分会については処分しないこととしたこと、東北海運支部においては、さん下一〇分会において職場大会が開催されたが、処分されたのは支部長一人であつたこと、右支部さん下分会について分会長らを処分しなかつたのは、各分会に対応する支局の職員の人数が少なく、その集会の態様が車座になつて話合う程度であり、指導的役割を果す者を認めることができず、又、管理職員が一人であつて十分に集会の態様を現認することができなかつたことによるものであること、以上の事実を認めることができ、<る。>
右認定事実から明らかなように、滋賀分会及び東北海運支部における処分については、被告局長の裁量権の範囲内において、合理的な理由のもとになされた措置ということができるから、形式上本件各処分との間に差異があることをもつて不公平ということはできない。
(六) 原告らは、原告中橋に対する処分について、同原告の年次有給休暇権行使の目的が本件職場大会への参加にあることを知りながら、年休を賦与したうえで、処分したことはだまし打ち的な処分であり違法であると主張する。
しかしながら、原告中橋に対する処分は、違法な争議行為である本件職場大会に参加し主たる役割を果したことをもつてなされたものであり、他方、年次有給休暇の権利は労働基準法三九条一、二項の要件の充足により、法律上当然に労働者に生ずるものであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である(最高裁昭和四八年三月二日第二小法廷判決民集二七巻二号二一〇頁参照)ことからすると、被告局長が本件処分をしたことをもつてだまし打ち的であるとの指摘は失当であるという外ない。
(七) 原告らは、本件各処分が職場大会を開催するについて権限のない分会長に対してなされたことをもつて失当と主張する。しかし、本件各処分が分会長であることの故をもつて、或いは分会長が本件職場大会開催の権限があり、開催したことの故をもつてなされたものでないことは前記説示から明らかであるから、右主張は失当という外ない。
又、原告らは、本件各処分が団結活動、正当な組合活動に対してなされたことをもつて失当と主張する。しかし、本件各処分が原告らの団結活動、正当な組合活動に対してなされたものでないことは前記説示から明らかであるから、右主張は失当である。
以上のとおり、原告らが懲戒権の濫用であるとして指摘する事由はいずれも認めることができない。
(八) そして、本件職場大会が国公法九八条二項に違反する争議行為であること、同大会における原告らの行為の性質、態様、情状及び本件各処分が国公法八二条所定の懲戒処分のうち最も軽いものであること、又、原告川上については国公法九八条二項後段の事実が認められないものの、本件職場大会に参加して主たる役割を果したことには変りがないことを考慮すると、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くと認められるほどに裁量権を濫用したとは認め難いといわざるを得ず、原告らの懲戒権濫用の主張も採用し難い。
七よつて、被告局長が原告らに対しなした本件各処分は適法というべきである。
第二被告人事院に対する請求について
一請求原因1ないし3については当事者間に争いがない。
二原告らは、本件裁決の取消事由として、(一)再抗弁1ないし6記載の事由、(二)本件裁決は時期に遅れた裁決であるから違法である旨主張する。
そこで、右(一)の取消事由について検討するに、右事由はいずれも原処分である本件各処分についての違法事由であつて、裁決固有の違法を主張するものではない。ところで、行訴法一〇条二項によると、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができないと規定しているところ、本件の場合、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができるのであるから、原告らの右違法事由の主張は右規定に反し許されないものであり、主張自体失当といわなければならない。
次に、右(二)の取消事由について検討する。
国公法は、懲戒処分等に対する不服申立(同法九〇条一項)を受理したときは、「人事院又はその定める磯関は、ただちにその事案の調査をしなければならない」(同法九一条一項)と定め、右審査請求審理手続を定める人事院規則は、「公平委員会が提出した調書に基づいて、すみやかに指令で判定を行なうものとする。」(同規則一三―一第五二条一項)と規定している。右規定の趣旨と人事院における不利益処分に対する不服申立制度の趣意を併せ考えると、人事院は裁決を社会通念上相当と認められる期間内になされなければならないことを義務付けられていることは明らかであり、本件のごとく原告らが人事院に対し最終陳述書を提出した後裁決がなされるまでに二年四か月を経過したことは、仮に本件事案の複雑さを考慮するも、既に社会通念上許容された期間を経過しているものとの批判が生ずるところである。
しかし、行訴法は、審査請求による権利救済と裁判による権利救済の調整として、審査請求前置主義をとる処分についても、審査請求があつた日から三か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで右取消しの訴えを提起できる(八条二項一号)とし、又、審査庁を相手として裁決をしないことを理由に不作為の違法確認の訴えを提起することができる(三条五項)と規定しているところからすると、裁決が社会通念上相当の期間経過後になされたことだけをもつて、右裁決を違法であるとして取消さなければ権利保護に欠けるとまでいうことはできない。よつて、裁決が遅滞したことは、裁決固有の瑕疵として取消しを求め得る違法事由には当らないといわなければならない。
原告らの右主張は、主張自体失当というべきである。
第三以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用については行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(上田次郎 松山恒昭 下山保男)